「旧車は、覚悟がいる」
買う前から、さんざん聞かされていた言葉です。分かっているつもりでした。
でも、まさか納車から普通に走れるようになるまで、7ヶ月かかるとは思っていませんでした。
2022年の年末に、ユーノス ロードスター Vスペシャル(NA6CE)を買いました。ブリティッシュグリーンに、タンの内装。ずっと気になっていた、あの形です。

この記事は、その7ヶ月の記録です。パンク、エンジン停止、R12のエアコン、車速パルスが出ないナビ。旧車を買うとどんなことが起きるのか、実際に起きた順番のまま書きます。
脅かすつもりはありません。結論だけ先に言うと、7ヶ月後には「快適」と言い切れるところまで来ました。手をかけた分は、ちゃんと返ってきます。
納車2週間、会社の帰りにパンクした
最初の洗礼は、12月20日でした。
会社からの帰り道、急に車がガタガタ言い出しました。買ったばかりの旧車です。頭に浮かんだのは、当然いちばん怖いやつでした。
足回りがイカれたか——。
路肩に停めて確認したら、ただのパンクでした。この瞬間、パンクで心底ホッとするという珍しい体験をしました。
ロードサービスを呼びましたが、この日は混んでいて埒が明かない。仕方なく自力でテンパータイヤに交換して、なんとか自宅までたどり着きました。
そして帰宅したら、玄関にAmazon US から荷物が届いていました。シートの張り替えキットです。

パンクでげんなりして帰ってきた男の目の前に、次の作業が積まれている。旧車生活の縮図みたいな一日でした。
年末は、シートの張り替えで潰れた
そのシートキットを、年末の休みで片付けました。
運転席側で要領をつかんだので、助手席側は4時間ほどで完成。取り付けてみると、中々いい感じです。

ついでにシートヒーターも埋め込むつもりでした。オープンカーで冬に走るなら、これは効きます。配線は後日、と思いながら大晦日を迎えたわけです。
ここまでは、まだ「趣味の作業」です。楽しい方の車いじり。問題は、年が明けてからでした。
1月、国道で突然エンジンが止まった
1月の土曜日、国道を走っていたときです。
何の前触れもなく、エンジンが止まりました。
セルは回ります。しかし、かからない。惰性が残っているうちに、なんとか側道まで転がして停めました。オープンカーは車重が軽いので、こういうとき少しだけ有利です。そんなことで喜んでいる場合ではありませんが。
ロードサービスを呼んで、レッカーで近所のロードスター専門店へ。
年末のパンクに続いて、これで2回目です。2回目ともなると、結構、慣れたもんでした。ロードサービスの電話番号も、もうすぐ出てくる。
犯人はエアフロメーターだった
2週間の入院を経て出た答えは、エアフロメーター(エアフローメーター)の故障でした。
エンジンが吸い込む空気の量を測るセンサーです。ここがおかしくなると、燃料の量が狂います。この年代のロードスターに使われているのは、板が空気で押されて開く昔ながらのタイプで、経年で接点が荒れてくる部品です。
そして、これを交換したら、思わぬおまけが付いてきました。
納車時からあった「クラッチを切ると回転数が急に落ちてエンストする」症状が、一緒に消えたのです。
信号待ちのたびにヒヤヒヤしていた、あの症状です。てっきりアイドリングの調整か何かだと思っていましたが、エアフロが何か抱えていたのでしょう。ひとつ直したら、ふたつ直った。旧車では、たまにこういうことが起きます。
ついでに、この入院中にスペアキーも作りました。ユーノス純正のブランクキーが手に入ったので、これをマスターにすることにしました。

電池切れの心配もない、押しても何も起きない鍵。持っていると、なんだか落ち着きます。
内装は「直す」より先に「拭く」
車が戻ってきた2月の土日は、内装に手を付けました。
といっても、部品交換ではありません。センターコンソールとメーターフード周りの、清掃です。
30年分の汚れというのは、想像以上に積もっています。逆に言えば、落とすだけで見違えます。半日かけて拭き上げたら、結構きれいになりました。

やることはまだ山ほどありました。ドアの内張り、サイドブレーキのノブ、フロアマット。数え上げるとキリがありません。
ただ、この「拭けば戻る」というのが旧車の楽しいところでもあります。新しい車は、汚れても劣化しても、拭いたところで新品には戻りません。この年代の車は、手をかけた分がそのまま見た目に出ます。
4月、エアコンのバルブを見たらR12だった
春になって、エアコンがまったく効かないことに気づきました。
まあ、ガスが抜けているんだろうと。とりあえず自分でチャージしてみるかと思って、ボンネットを開けてバルブの位置を確認しました。

そこで判明したのが、この車の冷媒がR12だったということです。
今のカー用品店に並んでいるエアコンガスは、R134aです。R12はもっと古い規格で、オゾン層を壊すという理由で日本では1995年に生産が終わっています。つまり、カー用品店で缶を買ってきて自分で入れる、という話ではなかったのです。
1989年から1993年に作られたNA6CEは、ちょうどこのR12の時代の車です。買うときにそこまで考えていませんでした。
ナビを付けたら、今度は車速パルスが出ない
同じころ、ナビの取り付けでも詰まりました。
車速パルスが取れないのです。
今の車なら当たり前に出ている、速度の電気信号です。ナビはこれを使って、トンネルの中でも自車位置を推測します。ところがこの年代のロードスターは、スピードメーターがワイヤーで機械的に回るタイプ。電気の信号そのものが、存在しません。
ないものは取れません。この手の「そもそも現代の前提が成り立っていない」という壁は、旧車ではあちこちで出てきます。
古い車は、何かと大変です。

ちなみにこの時期、週末のたびに洗車していました。緑の車は、花粉が積もっているのが遠目にもはっきり分かります。洗車が趣味になったのは、車のせいです。
5月から6月、1ヶ月以上の入院
そして、いちばん大きな山が来ました。
ここまで場当たり的に直してきましたが、足回りとクラッチは根本からやらないと、いつまでもキリがない。腹をくくって、専門店に預けました。
1ヶ月以上かかりました。内容はこうです。
- フルブッシュ交換(足回りのゴムを、全部)
- 車高調をTEIN FlexZへ交換
- スタビリンク交換
- クラッチのオーバーホール
- エンジンマウント交換
- ついでに、中古のBBSホイールへ交換

ゴムのブッシュは、30年も経つと硬くなったり、痩せたりします。見た目には分かりません。ただ、全部替えると別の車になります。
ハンドルを切ったときの「一拍遅れて曲がる感じ」が消えました。段差を越えたあとのバタつきも収まりました。エンジンマウントを替えたおかげで、アイドリングの震えも減っています。
正直、ここが分岐点でした。ここを飛ばしていたら、たぶん「思ったほど良くないな」と言って手放していたと思います。
7月、エアコンのパワーダウンに添加剤を入れた
エアコンも、この入院で直りました。夏に間に合った、と喜んだのも束の間です。
コンプレッサーが動いたときのパワーダウンが、とんでもないのです。
1.6リッター、120馬力の車です。今の軽ターボと大差ありません。そこにエアコンのコンプレッサーが噛むと、坂道では明らかに前に進まなくなる。信号が青になるたびに、エアコンを切って、走り出したらまた入れて——という運転をしていました。
調べてみると、添加剤でかなり改善するという話が出てきます。半信半疑で、いちばん安くて評判も良さそうなピカール(PiKAL)のエアコンプロテクターを買って、自分で入れてみました。

投入後、少し走ってみました。
体感ではっきり分かるほど、パワーロスが減りました。
正直、ここまで違うとは思っていませんでした。コンプレッサーの中の潤滑を助けて、動きを軽くする、という理屈だそうです。数千円でこれなら、旧車に乗っている方には試す価値があると思います。(あくまで個人の感想です)
7月22日、御在所サービスエリアにて
そして、この日が来ました。
2023年7月22日。この車で、2回目の遠出です。

高速を走って、サービスエリアに入って、一息ついて、また普通に走り出す。
それだけのことです。それだけのことが、7ヶ月かかりました。
納車から数えて、パンク1回、エンジン停止1回、レッカー2回、入院のべ1ヶ月半。エアコンは冷媒の規格から調べ直し、ナビは信号がないところから考え直し。
それを全部やりきったこの日、私はこう書いています。
「苦節7ヶ月、いろいろ対策してきたおかげか、今のところすこぶる順調。いや、快適と言っても言い過ぎではないくらい」
旧車を買うというのは、たぶんこういうことなのだと思います。買った時点では、まだ半分しか手に入っていない。残り半分は、自分で組み立てるしかない。
そこから、箍が外れました
快適になると、人間は欲が出ます。
8月、ホイールとタイヤを買いました。RAYSのVOLK RACING TE37 SONIC SL の15インチに、ダンロップのル・マンLM704。ちょっと散財です。

「ま、ギターに比べれば……」というのが、そのときの自分への言い訳でした。趣味が複数ある人間は、こうやってお互いを免罪符にします。
そして同じ日に、もうひとつ。TEINのEDFC5です。

車高調の減衰力を、運転席から電動で変えられるようにする装置です。せっかくFlexZを入れたのだから、という理屈で買いました。いちいち車の下に潜ってダイヤルを回さなくていい、というのは確かに便利です。
9月には、センターコンソールとドリンクホルダーを木目調にラッピングしました。

もっとも、この日の作業はそこで終わりました。暑すぎて、心が折れたからです。
作業用にワンタッチテントまで買っていたのですが、屋根があったぐらいでは大して変わりません。立てる気力すら湧かず、最後に洗車だけして撤収しました。

この日の自分のメモには、こう書いてあります。「もう冷暖房完備のガレージがいりますね」。車の次は、ガレージが欲しくなる。この病気に、終わりはありません。
11月、この車を手放しました
ここまで手をかけた車を、私は同じ年の11月に手放しています。
きっかけは、アバルト124スパイダーという車に一目惚れしてしまったことでした。ところが実際に乗ってみるとクラッチが鬼のように重く、普段の足には厳しい。おまけに元手にするつもりでNAを査定に出したら、びっくりするくらい安かったのです。
足回りを全部やり直して、クラッチを開けて、シートまで張り替えた車です。その金額を見たときの気持ちは、まあ、想像していただければと思います。
諦めかけたのですが、何の気なしにメルカリへ出してみたところ、想像以上の問い合わせが来て、それなりの金額で売れてしまいました。買っていったのは、千葉県の22歳のマツダの整備士です。「一生乗ります」と言っていました。
この売却の顛末は、こちらに別途まとめています。
手をかけた旧車に、買取店は値を付けてくれない|NAロードスターをメルカリで売った話
あの7ヶ月は、結果として次のオーナーへの引き継ぎ作業だったことになります。それはそれで、悪くない終わり方でした。
代わりの足としてやってきたのが、このNDです。

乗ってみての感想は、「NAで不満だった点が、ほぼ解消」でした。NAで知った走る楽しさはそのままに、剛性もパワーも経済性も現代の水準になっている。
ただ、それはNAで7ヶ月やったからこそ分かった差でもあります。最初からNDに乗っていたら、たぶん何とも思わなかったでしょう。
これから旧車を買う方へ
7ヶ月を振り返って、旧車を買う前に知っておくとよかったと思うことを、いくつか。
- 車両価格と同じくらい、直す予算を見ておく。足回り一式とクラッチで、けっこうな額が飛びます
- ロードサービスの加入は、買う前に済ませておく。私は7ヶ月で2回使いました
- 足回りは、ケチらず最初に一気にやる。ここを飛ばすと、車の本当の姿が分からないまま嫌になります
- 「今の車なら当たり前」が通じない場面がある。エアコンの冷媒、車速パルス、鍵。買う前に調べておくと落ち着いて対処できます
- 売るときは、車屋の査定だけで判断しない。手をかけた旧車の価値は、業者の表には載っていません
そのうえで、もうひとつ。
7ヶ月かかりましたが、あの日サービスエリアで「普通に走れる」と思えたときの感覚は、新車では絶対に手に入りませんでした。
手のかかる車ほど、直ったときが嬉しい。単純な話です。もし今、旧いロードスターを買おうか迷っている方がいたら、覚悟だけ決めて、買ってしまっていいと思います。
