パソコンの中から、拡張子が「.LZH」のファイルが出てきました。
今の圧縮ソフトでは、まともに開けません。20年以上前の圧縮方式で固められていて、専用の道具を引っ張り出してきて、ようやく中身が読めました。
入っていたのは、2000年3月のホームページでした。
当時はホンダのステップワゴンに乗っていて、「ステップワゴンeメールクラブ」というメーリングリストに入っていました。その中でも特にカーオーディオにのめり込んだ人間が集まって、お互いのシステムを見せ合う。サイトを作っていたのは、そのメンバーのひとりです。私は作り手ではなく、載せられた側でした。
ファイルの日付は2000年、作成ソフトは「ホームページ・ビルダー2001」。時代を感じます。
そして、その中に私の車のページがありました。読み返して、正直、驚きました。
25年前にやっていたことが、いま読んでもそのまま通用する内容だったからです。

写真は250ピクセル四方しかありません。ADSLも普及しきっていない時代で、大きな画像を置くと「重いページ」と怒られた頃のものです。粗いですが、そのまま載せます。
2000年、ステップワゴンに積んでいたもの
まず、当時のスペック表がそのまま残っていました。
- ヘッドユニット:SoundMonitor CDT-300X
- CDチェンジャー:ナカミチ 100cdc/i
- アンプ:SoundStream Picasso
- ツイーター:Dynaudio T330D
- ウーファー:Dynaudio 17WLQ
- ネットワーク:自作(クロスオーバー3kHz)
- バッテリー:OPTIMA REDTOP
ミニバンに積むものではありません。
そして、この表でいちばん気に入っているのが「ケーブル類」の欄です。こう書いてあります。
「なんだっけ?>師匠」
このページを作ってくれたのは、メーリングリスト仲間のひとりです。私の車を隅々まで取材して、スペック表にまとめてくれた。ただ、ケーブルの銘柄までは分からなかったのでしょう。そこで、埋まらない欄に「なんだっけ?」と書いて、そのまま公開してしまった。
ちなみに、ここで呼ばれている「師匠」は、私のことです。
本人に直接メールで聞けば済む話です。それを、わざわざホームページ上で聞いている。そして本人も、それを見て笑っているだけで結局埋めていない。25年後の今も、この欄は「なんだっけ?」のままです。
この距離感が、当時のインターネットでした。掲示板もSNSもなく、メーリングリストと個人のホームページしかない。公開されている場所が、そのまま雑談の場でもあったわけです。
ネットワークを自分で組んで、クロスオーバーを3kHzに設定している。今ならヘッドユニットの設定画面で数値を打ち込めば済む話ですが、当時はコイルとコンデンサを買ってきて、自分で組むものでした。
「禁断の内張りをはずしたところ」
ページの見出しが、そのまま「禁断の」で始まっています。

制振材はカスケードのVB-2を全面貼り。そのうえで、ページにはこう書き添えられています。
「2回もはがしたので、汚くなってます。もっかい貼りなおしたい」
制振材を全面に貼るのは、それだけで半日仕事です。それを2回はがしている。しかも、まだ貼り直したいと言っている。この頃の熱量は、我ながら大したものだと思います。
土台は人造大理石、その上にMDFを3枚重ね
ここからが本題です。バッフル——スピーカーを固定する板の作りが、なかなか異常でした。
- ベースはコーリアン(人造大理石)
- その上に15mmのMDFを3枚重ね
15mm×3で、45mm。人造大理石の土台を含めれば、もっと厚い。ドアの内側に、そんなものが埋まっていたわけです。
理屈としては単純で、スピーカーは自分自身の振動でバッフルを揺らします。バッフルが揺れると音がボケる。だから、とにかく重くて硬いものに留めたい。市販のバッフルボードで満足できなくなると、行き着く先はこうなります。

鬼目ナットは、裏からボルトで締める
そして、当時のページでいちばん詳しく書かれていたのが、ここでした。
スピーカーを木の板に固定するとき、木ネジで留めると、外したり付けたりするうちにネジ穴がバカになります。そこで使うのが鬼目ナット——板に埋め込んで、金属のネジ穴を作る部品です。
ただ、これを普通にねじ込むだけだと、締めたり緩めたりしているうちに鬼目ナット自体が浮いてくることがあります。
当時の対策は、こうでした。
「MDFのすみっこに4つ見えるのが鬼目ナット。これは裏側からボルトで締めています。こうすると、鬼目も浮いてこないし、ベストです」
裏側からボルトを通して、板ごと締め上げてしまう。これは今やっても正解です。25年前の自分に教わることがあるとは思いませんでした。
ちなみに固定は六角ボルトで、ツイーターが3本、ウーファーが6本。ウーファーを6本で留めるというのも、なかなかです。
内鉄板を、大きく切りました
バッフルを外した写真が、いちばん驚いた1枚です。

ドアは、外側の鉄板と内側の鉄板の二枚構造になっています。スピーカーは内側の鉄板に付きますが、この内鉄板の穴が小さいと、スピーカーの裏側から出た音がそこで詰まります。
だから、切る。
もちろん、切れば強度は落ちます。だからこそ、切ったうえでコーリアンとMDF45mmで塞ぎ直しているわけです。切って、代わりにもっと硬いものを入れる。理屈は通っています。
そのうえで、細かい処理が2つ書いてありました。
- 切った内鉄板には、ノックスドール(ダンピングペースト)を塗る
- コーリアンと鉄板の隙間も、同じノックスドールで埋める
- 見えないところ——いちばん大きなサービスホールのあたりに、吸音材としてミニソネックスを貼る
隙間を埋めるのは、そこから音が漏れると低音が減るからです。見えないところに吸音材を入れるのは、誰にも見えないけれど、聴けば分かるという部類の作業です。
ちなみに、このノックスドールは今でも普通に売っています。25年前に使ったものが、名前も中身も変わらずに手に入る。カーオーディオまわりの道具としては、かなり珍しい部類だと思います。
ハケで塗るタイプで、要は粘り気のある重い塗料です。鉄板に厚く塗ると、叩いたときの「カンカン」が「ボスッ」に変わります。シート状の制振材が貼れない狭いところや、隙間を埋めたいところに強い。当時、コーリアンと鉄板の合わせ目に使ったのも、まさにそういう理由でした。
バッフルの穴は、奥ほど広げる
バッフルを裏返した写真も残っていました。

当時の説明は、こうです。
「Wの穴は写真のように、鉄板に近づくほど穴を広げて、抜けを良くしています」
45mmの板に、まっすぐ穴を開けただけだと、スピーカーの背面から見て「45mmの筒」ができてしまいます。そこが音の通り道の邪魔になる。だから、裏側に向かって斜めに削って、ラッパ状に広げる。
今でも上手な人がやっている加工です。それを25年前に、手作業でやっていたことになります。
ウーファーの後ろに「パワーパッド」
最後の1枚が、これでした。

スピーカーの真後ろの鉄板に、カスケードのパワーパッドをブチルテープで貼り付けています。
ウーファーの背面から出た音は、まっすぐ後ろの鉄板にぶつかります。そこで跳ね返ってスピーカーに戻ってくると、音が濁る。だから受け止める。ここも、完成すれば一生見えない場所です。
そして「鉛のデッドマス」
もうひとつ、当時のページにこう書いてありました。
「ウーハーはナキを押さえるため、鉛のデッドマスをつけてます(オリジナル(^^;)」
スピーカーのフレームに鉛の重りを貼り付けて、余計な振動を止める。「オリジナル」というのは、どこかで教わった手法ではない、という意味です。書いたのは私ではなく取材した側なので、わざわざそう添えてくれたのだと思います。語尾の「(^^;」が完全に当時の空気です。
ちなみに鉛は重いので、貼りすぎるとスピーカーの取り付け部に負担がかかります。いま同じことをやるなら、量は控えめにすると思います。
ヘッドユニットまわりは、自家塗装の木目調

センターパネルの木目調は、買ってきたパネルではなく自分で塗ったものだと書いてあります。
そして、その上に載っているナビ。ダッシュボードの上に、外付けで、堂々と載っています。この置き方が普通だった時代です。
そして音源はCDです。ナカミチのチェンジャーには、CDを何枚も入れたマガジンを差し込んでおきます。「今日はこの何枚かで行く」と決めて出かけるわけです。途中で聴きたいアルバムが変わっても、そこに無ければ諦めるしかありません。
25年経って、変わったことと変わらないこと
読み返して、はっきり分かれました。
すっかり変わったもの
- CDチェンジャーは消滅しました。12枚を選ぶ儀式ごと無くなりました
- ヘッドユニットという概念が薄くなりました。今はスマホをつないで、画面はCarPlayです
- ネットワークを自作しなくてよくなりました。クロスオーバーもタイムアライメントも、画面で数字を打つだけです
- 外付けナビが要らなくなりました。あの箱をダッシュに載せる必要はもうありません
まったく変わらないもの
- ドアの内張りは、やっぱり剥がすしかありません
- 鉄板は鳴らさない。制振材を貼る意味は25年前と同じです
- バッフルは硬く、重く。スピーカーを揺らさないという原則は変わりません
- スピーカーの背面をどう処理するか。ここが効くのも、昔のままです
- 隙間は埋める。音が漏れれば低音は痩せます
つまり、電気の側は総取っ替えになったのに、物理の側は何ひとつ変わっていないということです。
スマホから最新の音源をハイレゾで飛ばしても、その音が最後に通るのは鉄板とスピーカーです。そこが鳴っていたら、上流に何を積んでも同じことになります。
2000年に人造大理石とMDF45mmでやっていたことは、今でも通用する。というより、今のほうが手を抜かれている領域かもしれません。
おわりに
正直なところ、この記録の存在をすっかり忘れていました。
「.LZH」という開けなくなりかけたファイルの中に、25年前の作業が全部残っていた。ドアの中に何を入れたか、なぜそうしたか、どこで手を抜かなかったか。
しかも、それを残してくれたのは自分ではありません。当時、私の車をわざわざ取材して、写真を撮って、文章にまとめてくれた仲間がいた。あの頃は当たり前のようにやっていたことですが、こうして25年後に読み返すと、ありがたさが全然違います。
自分の作業を、自分で記録しておくのは案外難しいものです。作業中は手が汚れているし、終わったら疲れて写真どころではない。他人が撮ってくれた記録は、そういう意味でも貴重でした。
車は何台も替わりました。ミニバンからSUVへ、オープンカーへ、軽へ。それでも、車が替わるたびにスピーカーを載せ替えて連れて行く癖は、25年経っても直っていません。
